人工膝関節全置換術(TKA)術後リハビリテーション【疼痛】
今回は、人工膝関節全置換術(以下TKA)の急性期リハビリテーションについてまとめてみようと思います。
術後リハビリテーションを把握することは、
急性期リハに携わるセラピストはもちろん
回復期リハなら、術後のリハビリはどう行われているのか?
なぜ自宅ではなく回復期に来たのか?
訪問リハなら、利用者や家族さんから手術についての相談を受けることもあると思います。
何より、術後の疼痛や可動域を深く考えることは
「人の心身を診る」上で非常にヒントとなる部分が多い気がします。
そこで
・疼痛
・関節可動域(屈曲、伸展)
・筋力
・深部感覚
・歩行などなど
TKA術後のリハビリで、テーマを絞って発信していこうと思います!
《目次》
・はじめに
・評価について
・介入方法について(治療や指導)
記念すべき第1回
今回のテーマは「疼痛」!!
術後早期は特に問題点となる部分が多いような気がします。
僕が学生の時は、学校の症例発表で「整形では疼痛は問題点の#1」となります。
と言われていたほどでした。。。
簡単に言えばそうなる気もしますし、間違ってはいないと思います。
しかし、セラピストとして術後の患者さんと関わる上では
「疼痛がある!」だけでは不十分ですし
「しっかり冷やしてください」
「力を抜けるようにしましょう」
「動かないから痛いんですよ」
というのも簡単ですが不十分です。(ついつい言っていた自分を思い出します笑)
正直急性期は「日にち薬」の部分も大きいので間違った指導を行っても、大体は患者さんが勝手に良くなるのが現実です。
しかし「疼痛」をどこまで深く考え、的確な介入(治療・指導など)できるか?
勝手に良くなる(自然治癒力)を阻害せずに促進できるか?
・急性期しか見れないセラピスト
・急性期もみれるセラピスト
の分かれ道の1つではないかと思います。
疼痛と言っても、疼痛の発生機序を知り
どこが痛いのか? それはなぜ? なぜそう感じるのか?
を整理する必要があるのではないかと思っています。
時間が経てば治るからいいのではないか?
それより別の部分への配慮が必要ではないか?
そんな声も聞こえる気はしますが
急性期で働く上で、TKA術後1日目でも全く疼痛を訴えない人、術後2週間たっても創部痛を訴える人がいる違和感を置き去りにはできませんでした。
☆評価では「どこが?いつ?どのぐらい?」
から答えを探し、導き出していきましょう!!
○どこが?
TKA術後に多いのは、、、
①創部痛
②筋性疼痛(大腿部前面、膝窩など)
ではないかと思います。
そこで、情報として考えておきたいものをいくつか挙げてみます。
①創部痛
・術式…どこをどう切っているから疼痛が出る可能性があるのか?
・出血量、手術時間…多い分疼痛が強くなる可能性もあるのかな?
・視診や触診…炎症所見(熱感、発赤、腫脹)
から安静時痛は炎症による要素もあるのか?
②筋性疼痛
その中でもどの筋肉か?という評価は必要ですが、
・術中の侵襲部位…侵襲によるもの?二次的なもの?
・術後ポジショニング…過緊張を誘発してしまっていないか?
・術前の膝アライメント…術後のアライメント修正により伸張ストレス?
・術前の疼痛部位…そもそも術前から痛かったのか?
・視診や触診…全身的なアライメント、筋緊張は?
○いつ?
安静時、動作時、荷重時なども評価が必要
安静時にあるということは炎症の要素が強い?部位によっては筋性かも?
動作時のみということは筋性の要素が強い?
などなど考察をする際にヒントとなる部分が多く隠れていると思います。
安静時 動作時 荷重時
①創部痛 + + +
②筋性疼痛 − ± ±
※ ± ⇨(部位と動作による)(部位と荷重方法による)
痛い動作と痛くない動作、
痛い荷重方法と痛くない荷重方法など
細かく評価していくこともより明確にするきっかけになると思います。
○どのぐらい?
・NRS(Numerical Rating Scale)
・VAS(Visual Analogue Scale)
・Face scale
などのscaleを用いて、可能な範囲で「客観的」に残せるようにできれば、
活動量やリハ中の負荷の上げ方を考慮する要素の1つになるのではと思います。
また、患者への痛みのフィードバックにも用いることができます。
精神心因性の疼痛への対応のきっかけになる場面もあるのでは??
○疼痛が与える影響
関節可動域制限、筋出力低下、
術前の逃避性の代償動作助長、
病棟内活動性低下、
患側機能改善の阻害~入院期間延長
退院後の活動性低下~希望獲得を阻害
(今回は各メカニズムについては触れませんが)
少し考えるだけでも、どんどん出てきます。
疼痛の軽減が、早期退院~希望獲得に関わる!と私自身は考えています。
○各疼痛への介入方法
どの方法をとったとしても自分の中でどの効果を狙って行なっているのかはっきりさせておけばいいと思います。後は効果判定をしてより良い方法を実施する。
☆今回は私が実際に行なっている介入方法をいくつか挙げさせていただきます。
①創部痛
・アイシング
疼痛閾値の上昇、痛覚伝導路の遅延による感覚性インパルスの減少、
新陳代謝低下による発痛物質産生の減少など。
何より「冷やすと気持ち良い」と患者が感じることも大切と考えています。
冷やしすぎて可動域制限や筋出力低下を助長する場面もあるので注意。
・創部マッサージ
触圧刺激を与えることで痛覚を抑制。(神経繊維と伝導速度の関係)
創部の癒着予防で、二次的に生じる可動域制限も防ぐ
何より本人の創部に対する恐怖心や不安感を軽減できることも多々あります。
リハの対応中から「触る練習」を一緒にすることも多いです。
まず創部の遠いところから!!
傷口は怖いって患者さんと、赤信号みんなで渡れば怖くない精神を活用。笑
②筋性疼痛
大腿部前面
・端座位脱力練習
下腿後面を把持し、時間をかけて大腿四頭筋の持続伸張~弛緩を学習。
あくまで疼痛を出さないようにゆっくりゆっくり。
リハの中でコツを掴んだら、居室でも自身で行なってくれる場合が多い。
passiveでの可動域が作れたら後は筋出力向上と癒着予防を図る!!
膝窩部
・膝窩部を感じる練習
クッションの硬さや指の本数など、触覚や圧覚に意識を向けることで
痛覚刺激の入力を抑制。
自身で触っていただき、過緊張の状態を感じていただくのも方法の1つ。
居室でのポジショニングも確認し、
後々は大腿四頭筋セッティングへの応用もできる。
膝窩筋や足底筋?などなど判別する意識も大切!
もちろん、痛みの部位によっては腰椎疾患の混在など他の要素も頭に入れる必要がありますし、だからこそ痛みの評価は非常に重要だと考えています。
《まとめ》
・痛みの原因をはっきりさせる
どの要素(組織はもちろん、気質的な部分も含む)が強いのか?
・しっかり評価する「どこが?いつ?どのぐらい?」
どこ? ⇨創部痛と筋性疼痛(特に大腿部前面、膝窩が多い)
いつ? ⇨安静時、動作時、荷重時
どのぐらい?⇨客観的に経過を追う
・疼痛の軽減が、早期退院~希望の獲得に関わる!であろう?
・各疼痛への介入方法
どの効果を狙って行なっているのかはっきりさせる!
効果判定~良い方法を実施!
例
①創部痛
・アイシング ・創部マッサージ
②筋性疼痛
大腿部前面
・端座位脱力練習
膝窩部
・膝窩部を感じる練習
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともTKAに関与する内容を発信していこうと思います。
臨床や実習で悩んでいることがあれば是非是非一緒に考えていきたいです。
メッセージお待ちしてまーす( ̄∇ ̄)!!
おまけ
疼痛の発生機序
⑴侵害受容性疼痛
侵害性刺激による痛みによって危険から身体を守る生理的痛み
・高域値機械的受容器 一次痛 Aδ繊維
術後の場合、切った直後に発生
⇨麻酔から目が覚めた時点ではとっくに関係のない話ですね。
・ボリモーダル受容器 二次痛 C繊維
⇨原理的にはリハビリ対応時に直面するのはこの痛みですかね。
疼痛伝達や抑制機構に関係する中枢及び末梢神経系の損傷や機能異常によって生じる痛み
⑶精神心因性疼痛
感情、情動面など。もちろんこの面も大いに関係しているかと思います。
痛みの表現の仕方など、人によってそれぞれですし個人的には結構意識している部分です。